ふん、とそっぽを向いた私の頭上から聞こえるクスクスという忍び笑い。
馬鹿にされてる感が払拭できず、三浦さんの腕の中から抜け出した私は一人でマンションへ向かい歩き始めた。
「おーい、菫。」
「……。」
「待てよ。怒ったの?」
「……。」
「あ、でも俺の部屋に向かってくれてんだ。」
「ッ―――、……、」
やけに自信たっぷりで、勝ち誇ったような声色に何か言い返してやろうと振り返ったところで、止めた。
「(…何よ、あの顔。)」
不本意だが言葉を紡がなかったのは、視線の先にある三浦さんの顔があまりにも優しかったから。
愛しそうに、私を見つめる瞳に熱いものが込み上げてきた。
あの瞳を、三浦さんが、私に向けてくれている。
その事実を今こうして実感できる私がいる。それが私の胸を酷く穏やかな鼓動を持って打ち知らせた。


