囚われジョーカー【完】




気付けば、私はその後ろ姿へと向けて駆け出していた。

ドキリ、ドキリと高鳴る心臓の馬鹿正直さ。



近付く荒い息と足音に気付いたその後ろ姿がゆったりとした動作でこちらに振り返る。


私の姿を捉えたその目が大きく見開かれ、低く少し掠れた声が私の名を呼んだ。




「菫?…どした?」

「…後ろ姿が見えたんで、…何で?」

「ん?何が?」

「今朝は、車だったじゃないですか。」

「あー…和也に貸した。」



そう言って煙草をくわえ先端に火をつけた三浦さんは、ゆっくりと紫煙を空に吐き出した。


それを見て自分で「はは、白」と笑うどこか無邪気な彼に胸が跳ねた。



「寒ぃ。」

「当たり前ですよ、コートも着ないで。」

「車だったから。」

「……、」



小さく微笑むように笑った三浦さんは、ポケットに突っ込んでいた手をそっと私へと差し出す。


何だ、と首を傾げて見せると。ちょっとぶっきらぼうに「手」とだけ呟いた。