アツイ感情を抱けば抱くほど、逃れられなくて。結局は自分から逃げ出したくせに、最後まで思いを捨てきることは出来なかった。
偽善者、私みたいな人間を世間ではこういうのかもしれない。
叔父さんの車からは、落ち着く控えめなココナッツの香りがして。
ほ、と息を吐いて私は声音を出来る限り静に話し始めた。
「もう、心配ないよ叔父さん。」
「…。」
「三浦さんの傍にきっと、堂々と、いられるって思えるの。」
「……そっか。」
叔父さんはそう小さく呟くと、優しく口角を緩めて持ち上げると片手を私の頭の上に乗せた。
多少乱暴な頭を撫でる手が、酷く温かかった。
この温かさは、昔から大好きだった。
「今度お店に連れてくること」とお父さんみたいなことを言ってきた叔父さんに笑ってしまった。
それを言えば、返ってきた言葉は「まあ兄弟だから」とどこか自慢気なものだった。


