浮上を始める箱の振動を足裏から感じると、その緊張もピークに達する。
何でこんなに緊張してるんだろうか、と自分でも理由が分からない胸を打つ鼓動が苦しい。
チーン、と小気味良い音を鳴らしてゆっくりと開く重たい扉。
私もそれに伴って俯いていた視線を浮上させていく。
「……ッ、」
その先に映る、気怠げに壁に背中を預けて堂々と煙草を吸う男の視線に捕まる。
ニヤリ、煙草をくわえた唇が綺麗に弧を描き私の胸はその妖艶さにドキリと高鳴った。
携帯灰皿へと白い棒を擦り付けた男は、だらだらとした足取りで今だエレベーターの中にいる私の前まで歩み寄る。
「おかえり。」
「……ただいま、」
グイッと腕を引っ張られ、よろよろともたつく足取りで私はエレベーターを降りた。
ゆったりとした動作で見上げれば、その優しげに細められた瞳が私を映し出す。


