「…適わねえ、なあ…」
「清水くん…?」
「財もある。顔も頭も、篠宮を幸せにもできる。俺には適わない。」
「……、」
「…もう、篠宮が俺のあげたピアス付けてくれてるだけで、いいや。」
そう言うと清水くんはニッと歯を見せて笑い。自分の耳朶をトントンと指でつつく。
「それ、付けてな。」
「…付けるよ、ありがとう。」
私も笑顔を返し、髪を耳にかけ直す。そして、左の耳朶に光るスミレのピアスをちょんとつついた。
切なそうに、けれど嬉しさの方が勝った微笑みを浮かべた清水くんは入ってきたお客さんの接客に回った。
数10分後、麻乃さんが仕事に戻るらしく席を立ち上がった。今日は残業らしくその前に休憩しに来たらしい。
以前来たときに目が合った店員が私ということには「何か会ったことある顔だな」と思っていたと言っていた。


