そんなのは屁理屈です、と言おうとした私の口は微細に震えていて。上手く言の葉を吐き出すことが出来ない。
そうかと思えば視界まで揺れ始め、心臓が激しい動きを見せ始める。
「菫。」
「(止めて、やめて、ヤメテ…!)」
呼ばないで、もう、乱されたくないのに――――――――…
「…開けたら、三浦さんはどうするんですか。」
震える声に必死で冷静を装い、そう問い掛ける。
膝を抱えているから、くぐもった吐息混じりの声は聞き取りにくいものとなってしまったが。
どうやら三浦さん耳にはちゃんと届いていたらしい。
「決まってんじゃん。」
「……、」
「菫を抱きしめる。」
「っ、」
――――菫、開けろよ。
ガチャリという開鍵音。
小さく開いたドアの隙間から侵入してくる肌を刺すような風。
目に入ったのは、ダークグレーのスーツに緩んだストライプ柄の紺色ネクタイ。
鼻腔を刺激するのは、泣けてくるシトラス。


