まさか、まさか、そんな冗談でしょう、嘘。
ぐるぐる脳内に渦巻く纏まることない思考の波。ドクリ、ドクリと心臓が嫌に高鳴る。
“菫、開けて。”
「っ…」
ドン、玄関の方から聞こえる何かを強く殴るように叩く音。
足はその音に引き寄せられるかのように、ゆっくり玄関へと向かっていく。
「…菫。」
サンダルへと足を滑り込ませ、覗き穴から外を見ようとした時。
ハッキリ、携帯からではなく。ドア越しに、確かに聞こえた私の名前を呼ぶ声。
鍵は当然閉まっている。開けたら、ダメだ。
覗き穴から外を見ることは止めて、ドアに背を向けそのまま座り込む。
「…お帰り下さい。」
“菫。”
「会う気なんて、ありません。」
“頼む。菫、マジで開けて。”
「………アサノさんの所に、行けばいいでしょう。」


