ようするに、内装もメニューに並ぶ料理名も高そうなのだ。だって、値段書いてないし…。
私は向き合って座っている男の顔をそっと盗み見る。
「あ、君さ。」
「…………はい。」
急に視線が私に移動するから、吃驚して返事が遅れてしまった。
怪しくは思われていないようだが、何だかよめない大人だ。
「名前なんていうの。」
「…篠宮菫、です。」
「ふーん。俺はね、」
―――俺はね、三浦。
―――三浦…
―――そ。三浦。
―――…三浦さん?
何度も゙三浦゙というらしい彼の名前を口に出して呟いたのは、名字しか名乗らなかったから。
一瞬、忘れているのかとも思ったけど。三浦さんが適当に頼んだ(高そうな)料理を食べ車で家まで送ってもらうまでも。
彼は、自分の名字しか名乗らなかった。


