そう思い無言を貫き通す私に、男は怪訝そうに眉根を寄せる。どうやら、無視していると思われたらしい。
「…お金、ですか。」
「違うから。」
「じゃ、何か御用ですか?」
「君、以外に冷たいね。」
…そんなん当然だ。私がジュースをぶっかけてしまった男は本題に触れずに話しかけてくる。
金なら金と、言ってくれた方が此方としては有り難い。なんか、面倒臭い。
「あのスーツ…」
「(!来たか…。)」
「悪いと思うなら、乗って欲しいんだけど。」
「…意味分かりません。」
ちょっと、この人頭大丈夫か。何で分からないと言いたげな顔をする男の頭を私は本気で心配した。
見ず知らずな男の車に乗り込むなんて、例えこちらに非があったとしても軽々しく出来ることじゃない。
この人が、何者かも知らないのに―――――。


