囚われジョーカー【完】





よりにもよって、私はとんでもない男の膝にジュースをぶちまけたらしい。


一気に警戒心を剥き出しにする私に、男は喉の奥でクツクツと笑う。その目が猟奇的にギラつくから、一歩後退。




――――実に、可笑しな光景だと思う。


ジュースぶちまけた筈の店員が、被害者である男を睨みつけているのだから。でも、これは仕方がない。



「申し訳ございません、お客様。」


と。その現場は(こういう時には役に立つ)店長である叔父さんの仲立ちによって治められた。




その後は。


クリーニングも弁償も断られて、意味不明なことに男は妖艶な微笑を一つ残し立ち去った。

叔父さんには、怒られた。今までで一番だ。




熱いミルクティーがかからなかっただけ、有り難いとぼやいていた。うん、確かにその通りだと思う。


でもやっぱり、罪悪感が残っているのは確かで。弁償は無理でもクリーニング代くらいは払うべきだった。