「す、すみませんでした…!!」
「いいよ。」
「スーツ…、クリーニング!弁償します!!」
「気にすんな。」
頭はパニック状態。
経緯は、慣れないヒールのせいで躓き、転んだ拍子に《危険》だと感じていたあの綺麗な男の膝にオレンジジュースをぶちまけてしまったのだ。
ヒヤリ、背中を冷たいモノが駆け上がる。
どうしよう、このスーツ見た感じ絶対高い。あ、このブランドVIP客御用達とかテレビで言ってたやつだ。
ただの学生の私が、こんなもの弁償出来る筈がない。
と。
男は取り乱し冷静を失う私の頬をするりと撫で、身を屈めるように私の耳元へとその端正な顔を近付け小さな声で囁いた。
「バイト、何時に終わるの。」
「…は…?」
男の声は、私にしか聞こえていないらしく。眉を寄せ男から飛び退いた私を上目で見上げた男はくすりと艶やかに笑った。


