視線の高さが、床に近いところになっていて。目の前には、質の良いダークグレーのスーツ。
が。
そのスーツの膝の部分からは甘い匂いが漂い、濡れている。そこから垂れる液体はオレンジ色。
「大丈夫か、゙――゙?」
「ああ。…君、怪我ない?」
「……、」
「おーい。」
「……あ、…」
肩を軽く揺すられ、私のフリーズしていた意識は現実へと引き戻される。
現実逃避、という言葉の方が合っているかもしれない。
私は視線をゆっくりと上へ持ち上げて行き、相手の顔を確認した瞬間。くらり、目眩がした。
私を見下ろす視線は、睨んでるわけじゃないんだろうけど鋭い。綺麗すぎる顔の双眼が私を移す。
―――嗚呼、なんてこと。
高めに纏めていた髪ゴムが切れ、長い黒髪がばさりと落ちてくる。
目は瞬きを繰り返すことしか出来ず。視界に広がる景色から逃げたい衝動に駆られるが、それは叶わない。


