そいつに出会ったのは、教育も終わりに差し掛かった頃だった。

俺たちは、学校の様に、同じ時期に攫われてきたガキどもが、同じ教育を受け始める。
それが、順次行われるので、同時期に教育を受け始めた連中は、同期の様なものだ。

だが、能力に応じてランク別に別れていくと、その差はなくなっていく。
何年たっても同じ教育を受け続ける者もあれば、どんどん先に進み、高度な教育を受ける者もいる。年齢は関係ない。

俺は、かなりの早さでランクを上げ続けていた。

そして、おそらく最終教育を受けるあたりで、そいつに出会った。

「初めまして、レイ君。私の名はシュウ。よろしく」
ヤツの第一声はこうだった。
ご丁寧に、右手まで差し出しての挨拶だ。

教育を受け続けたおかげで、俺を含めた周りの連中も、まともな言葉遣いというものを覚えてはいた。
だが、俺たちの間で、それを使う者などみたことがない。
身に染みついた乱暴な言葉遣いで、やはり喋っている事が多かった。

なのに、何でこいつは教育通りのきちんとした挨拶をするんだ?
そもそも、挨拶なんてされた試しがない。

俺は内心唖然としてしまった。が、そんな事を表に出すほど莫迦じゃない。
「こちらこそ、よろしく。これからしばらく一緒ですね」
笑顔まで付けて、右手を握る。

…考えてみたら、教育以外で、握手したのはこれが初めてだった。

「……君は、かなり出来そうだね…。さすがに、最短でここまで来ただけの事はある」
右手を離した後、かけていた眼鏡を上げなおし、ヤツは言った。
「きっちり挨拶を返したのは君が初めてだ。今後が楽しみだな」
そう言って、微笑みながら去っていった。

これが、ヤツとの出会いだった。