教室に向かう途中、僕は担任に呼び止められた。
「おい、水瀬!」
普段、個人的に話をすることなんて滅多にない。
僕は特に問題のある生徒でもないし、特に優秀な生徒でもない。
目立たない一般生徒だという、ヘンな自負がある。
「はい?」
そんな僕なので、何をしでかしたかな、とちょっとびくびくしながら返事をする。
何かしてなければ、声をかけられることなんて滅多にないから。

「昨日、倒れたんだって? 今朝保健室の先生から聞いたぞ。大丈夫なのか?」
心配そうな表情の先生に、僕はちょっと感動してしまった。
「あ、はい、もう大丈夫です。ありがとうございます」
「うん、ムリはするなよ。野球部の監督さんからも連絡頂いているし…。それにおまえ、ここんとこ朝、あんまり調子良さそうじゃなかったしな」

え~、そんな事まで見ていたの?

僕が意外そうな顔をしたからだろう、先生は心外だな、って顔をして僕に言う。
「一応、俺はおまえのクラスの担任だぞ。生徒の様子ぐらい、毎日見ているさ。今日はつらかったらすぐ保健室に行くか、早退するんだぞ」
そう言うと、担任は去っていった。

そっか…見ててくれてるんだ…。

僕みたいな生徒でも、ちゃんと気にとめて様子を気遣ってくれてたなんて、ほんとに感動しちゃうな。

「ふぅん、あのセンセ、いいとこあるね」
みくるちゃんも、感心したように呟いた。

いい先生が担任で、僕はラッキーだよね。