「ねぇ、葵【あおい】~そろそろ家、継がないの?」



甘い声で俺に問いかける彼女の大原沙耶【おおはら さや】。



“彼女”と言うより、“親が決めた結婚相手”といった方がいいだろう。




お互いの父親同士が、学生時代の親友で結構仲がいい事からお互いの子どもを結婚させようと約束したらしい。



そして、俺も沙耶も次期社長になる予定だった。




『俺は継ぐ気なんかないよ?』



そう、俺は家の仕事(オリジナル文房具を扱う会社)を継ぐ気なんかまったくなかった。



だから、春、大学を卒業して“高校教師”になる事に決めた。