それには理由があり、奥尻の母の墓を
父が守ってくれている。

 父を遠ざけるあまり、
母をも遠ざけてしまっている自分を恥じ、
せめてもの供養の気持ちが
仕送りとなっていた。

 人は不幸が続くと心が歪み、誰かを憎まなければ生きていけない事がある。

『自分ばかりが何故、不幸で貧しいのか?』と、周りの幸せそうな人々をねたみ、羨(うらや)んで心が萎えてしまうのである。

 父も夏帆の気持ちには気付いており、
『私を憎む事で夏帆が強く生きていけるのなら、それはそれで良いではないか!世間様をねたんで生きるよりは、遥かにマシである』と考えていた。

 しかしながら、お金が足りない。

 お金が無ければ遊びに行けない。

 退屈。

 毎日、まいにち、デパ地下と寮の
往復の繰り返し。

 マンネリ。

「何か刺激が欲しい~。」
 
 この時、夏帆はふと呟いた。

「私って母が死んだ後、
笑った事があるかしら?」

 思い起こしてみると、
笑顔くらいはあるだろうが、
腹の底から笑った記憶が無い。