蒼髭公はその言葉を待っていたのだろうか。 毛深い両手で娘の顔を包み込み、穏やかに笑った。 「あなた……」 妻たる娘、なんと美しいことであろうか。 最後に娘の名を読んで、蒼髭公は床に倒れ伏した。 真っ赤な血が辺りを包み、床一面に広がっていく。 「あなた…」 祈るように娘は蒼髭公の手を握って、なおも涙は止まらなかった。 愛せなかった。 旦那として愛を誓った愛しい旦那を愛せなかった。