「あなた、お顔が汚れていらっしゃいますわ」
ある日、妻は私にそういって微笑み、鏡を見せた。
私は怒りに任せて妻を殴った。
妻は床に倒れた。
私は慌てて駆け寄ったが、触れることを拒んだ。
妻の顔に傷がついた。
私は心がどうしようもなく痛かった。
「ほら、泥がついていらっしゃいます」
妻は何事もなかったかのように私の顔をその指で触れてきた。
「いけない、触るな」
私は拒んだ。
けれど妻は諦めない。
「妻が主人に触れて何が悪いのです」
「私は醜い。
触れたら美しいお前まで汚れてしまう」
すると、妻は目をぱちくりさせてにっこり微笑んだのだ。
星のように淡くて柔らかな微笑みであった。