女は若き武将の頬に手を当て優しく口付する。その唇は柔らかく、暖かく、確かに生きて居る事を感じる事が出来た。

波の音だけがあたりを包む。月夜の空は、これからこの星が滅びるまでの間、地上を見詰めつでけるだろう。

女はゆっくりと若き武将から離れると、寂しそうにこう言った。

「悔いが残らない様に生きるといい……立った一度しか無い生に感謝して…」

女はそう言うと、光の粉と共に若き武将の前から消え去った。

「悔いなど、残す物か……」

若き武将は、少し震える唇でそう呟くと、懐から笛を取り出し再びそれを奏で始めた。

笛の音は闇夜と海の波に混ざり、儚く消えて行く。若き武将の心は、無なのか……それは、誰にも知る事は出来なかった。




-残月の末路人-END