倉木とは入社してから何年もの間、ほとんど会話をした事がなかった。

そりゃぁ、同期だし面識もある。

だから、会えば挨拶くらいはしていたが、私と倉木の間柄って、そんなもの。

倉木の噂はもちろん耳にしていたし、私の中でも“カッコイイ人”という認識くらいはあったけど。

話すようになったのは倉木が秘書課に異動して来てからだ。

今では、私の前でも自然に笑ったりしている倉木だけど。

異動して来た頃は、その場に合わせてにこやかにしている事はあっても、あまり自然に笑顔を見せる事はなかった。


そんな倉木のふと見せる笑顔。

その笑顔に私はドキッとしたし、惹かれはじめた。

そして、倉木と一緒に仕事をするにつれ、“すごく気配りをする人なんだ”とか、秘書としては私の方が先輩だけど、いざという時は頼りになったり。

そんな倉木の一面を知るにつれて、私はどんどん倉木を好きになっていく。

だけど、異動して来た頃、倉木には彼女がいた。

だから、私は気持ちを伝える気なんて、全く無かった。

しばらくして、倉木は彼女と別れたみたいだけど。

倉木が彼女と別れたからといって、私は気持ちを伝えようとは思わなかった。

だって、私と倉木は同じ課。

しかも、その頃は、私が倉木に仕事を教えていたっていうのもあり、気持ちを伝えて気まずくなりたくなかったから。

というよりは……

ただ、私の気持ちを伝える勇気がなかっただけ。

そのうち、

“倉木には好きな人がいる”

という噂を聞くようになるし……

結局、気持ちを伝える事のないまま、ずっと片想いをしている――…