「っていうか……、専務が“嫌いで別れたわけじゃない”って言っていたの?」


英治の言葉で、引っ掛かった事を聞く。


「あぁ。自然消滅したって」


はぁっ!?


誠司の都合の良い言い方にイラッとする。

そりゃぁ、いくら仲が良くても会社の人に、わざわざ自分から“浮気しました”なんて言う人はいないだろうけど。


「知里?」


苛立ちが顔に出ていたのか、英治は心配そうに私を見ている。


「あっ、ごめん。えっと……、嫌いで別れたわけじゃないのかもしれないけど、だからって、私の気持ちは専務に全くないから。……それと、自然消滅したわけでもないから」


あの時は、確かにショックだったけど、誠司を嫌いって思っていなかった。

それは事実。

まぁ、誠司があの頃、私の事をどう思っていたかなんて、わからない。

だから、“嫌いで別れたわけじゃない”っていうのは、あながち間違いではないけど……

でも、それだけを聞くと、今でも誠司に気持ちがあると思われてしまう。


英治は誠司に憧れている。

だから、浮気の話はしない方がいいだろうな。

そう思った私は、誠司に気持ちがない事だけは、はっきりと言い、後は何となく言葉を濁した。

だけど、やっぱり英治は納得いかなそうな表情をしている。