けど ―――
慌てる事なんかなかったんだ
真木が以前、言ったみたいに
"雨の日でも、靴を泥が汚す事は無い"
そんな生活を数カ月前まで
当たり前に過ごしていた様子は
ムダな力なんていれた事はないだろう
細いふくらはぎ
コドモみたいな
そのふくらはぎと大差ない太さの
足首を見ていて判った
階段には、脱げたヒールが一足
三階から二階へ切り替わる
少し広い空間
アドリアナは、ものの見事に、
ガードを下敷きにして、スッ転んでいた
しゃがんだ俺の横に見えるのは
"清掃中につき、立入禁止"の、
足付きプレート
――… 三階、貸し切りやがってたのか
とにかく頭がゴチャゴチャしてるけど
アドリアナの様子を見てやらないと
まず、そう思う
普通なら背負って、家に連れて行くなり
落ち着くまで様子を見るとか ―――
でも
「 …この場合
真木の家に戻ろう アドリアナ 」
「 ―― ウソツキ!!!
一日楽しませてくれるって
ジュン、あなた言ったじゃない!! 」
「 …言ってねえよ
"時間平気なのか"
"服買ってやろうか"とは言ったけど 」
「 ――――… !! 」
「 おまえ
… もしかして
真木の結婚、止めに来たのか? 」


