歌が終わった後は握手会。
あんな適当な痛い歌なのにファンがわぁって詰め寄ってくる。
今は家にいるであろう山根の事を思い出す。ふん。見てるでしょう?山根。たとえ適当だろうがファンは気付かないのよ。
山根の悔しがる姿を想像しようとしたけどダメだった。悲しげにこちらを見ている姿しか想像出来ない。

ファンはあたしの手を大事そうに握ったり、
強く握ったり、
そおっと握ったり。
さまざまだった。感想を述べてるやつもいたがただ耳障りなだけ。
頭になんか残らない。

がりっ

「痛ッ」
ファンが握手を失敗したのか?と思ったが違うようだ。
爪をあたしの手にたてている、ずっと。
「…力が強いんだけどなぁー」
可愛く言ってやる。
手に爪をたてていたのは14くらいの少女。
子供とは思えないくらい大人びていて、冷たい感じだった。
彼女は黙ったまま笑う。
「満宮さんの歌、素敵でした。」
あれ。普通な感じ。
「力強いね、あなた。少し、痛いかも」
話通じるわよね。

すると爪を更に強くたててきた。
「私、あなたの歌の『満月って〜』って所……」
「ありがとう」
よくわからないけどこのこおかしい。
痛いって言ってるのに耳遠いわけ?さっさと切り上げよう
満月ってーって所はファンに一番人気な部分。
あたしはきれいぶってて嫌だったけど。

「いえ。あたし、あの部分最高に嫌いっていいたくて」
にこっ

「……」
何なんだ。
何なんだ。
ぐるりぐるぐる
「……。」
あたしは黙ったまま手を払いのけた。
「あたし、あなたの一番のファンです」
にこり。

きもちわるい。
この笑みきもちわるい。

心を読んでるかのよう。
ぴぴぴっ
ケータイがなる。
山根からだ。
メールのようだがあたしは見ずに削除した。

見る気、おきなかった。
さっきの明るい気持ちなんか、消えた。



終わり