甘い罠

「はじめまして、木村と申します」

瑠璃の正面に座った木村は、笑顔で挨拶した

作り笑顔だろうが、仕事柄慣れているのだろう
その笑顔はとても自然だった


「はじめまして、内藤と申します」

瑠璃は頭を下げた

笑ったつもりだったが、きっと引きつっているだろうなと自分でも分かった


「ちょっと、申します。はやめてよ2人共~(笑)

これじゃ本当にお見合いみたい(笑)」

碧はクスクス笑った


瑠璃の顔は少し赤くなった

「あれっ?
俺、お見合いのつもりで来たけど?」

木村はわざと真面目な顔を作って言った

木村の冗談に、碧が手を叩いて笑う

緊張していた瑠璃は、碧が笑って、ようやく木村の言葉が冗談だと気付いた

「ま、今日は楽しく飲みましょ」

そう言って碧は木村にメニューを差し出した

「私達早く着いちゃって先に飲んじゃいました

木村さんは…まずビール?」

碧は、さっきまでとは別人のようにテンション高い声で聞いた
 
木村はおしぼりで手を拭きながらメニューを眺める

「そう…だな

うん、やっぱり最初は生にしよっかな」

「了解

すいませーん」

碧は店員さんを呼んだ

瑠璃は気を利かす余裕がなく、ただ2人のやり取りを見ていた

「あ、この子私の高校の同級生だったんです

ね?」

黙っている瑠璃を見かねて、碧は木村に紹介した

「うん…

あ、瑠璃です
よろしくお願いします」

瑠璃は、今度は精一杯にっこり笑った

「ん?
ル…リ?」

聞き取れなかったのか、木村は耳を傾けた

「ルーリ!

瑠璃色の瑠璃です」

碧が大きな声で言い直す

「瑠璃
あ~瑠璃ちゃんね

へぇ、可愛い名前だなぁ」

木村は瑠璃を見て微笑んだ

名前を褒められただけなのに、「可愛い」という言葉に反応して、瑠璃は照れた


木村はよく喋る男だった
仕事柄なのか、元々お喋りなのか、気を使っているのか、瑠璃には分からなかった

時折、意表をつく木村の冗談がツボにハマり、瑠璃はますます悪くないな、と思った