甘い罠

「津崎様~
お連れ様お見えでーす」

遠くで店員さんの声がした

仕切りの向こうが

騒がしくなる

「木村さん来たかも

あ、杉山と私のことは内緒ね!
会社の人は誰も知らないから」

碧は早口で言うと、一度中腰で立ち、座り直した

「もちろん」  
瑠璃は頷いた



「失礼しまぁす
お連れ様入りまぁす」

瑠璃を案内した、おかしな口調の女性店員の声がした

「はぁい、どうぞー」

一オクターブほど高い声で碧は返事した


仕切りをよけ、木村がひょっと顔を覗かせた

視線が、瑠璃と碧を交互に見るように泳ぐ

「お~
お疲れ~」

碧を見て気さくに声を掛け、瑠璃には頭だけぺこりとする

「や~、寒い寒い」

木村は独り言のように言いながら席に着いた

瑠璃は瞬時に、木村の顔と髪型、背の高さ、スーツ、靴下までチェックした

33歳の木村は、瑠璃が想像していたよりはるかに若々しかった

目は二重だが、そんなに大きくはない
鼻筋は通り、唇は意外にぽってりしている

頬骨の辺りにニキビ跡のようなものが少しあるが、いい顔してるなと瑠璃は思った

グレーのスーツを着こなし、髪の毛もワックスらしきものでセットしてある
営業をしているだけあって、清潔感があった

木村の風貌は、瑠璃の予想をはるかに上回っていた