甘い罠

杉山が非常階段から落ちたその日の同時刻、同じ非常階段から木村も落ちた

それに間違いなかったが、実際の状況は、瑠璃の頭に浮かんだものとはだいぶ違っていた

その日杉山は、企画課のある6階の踊場で煙草を吸っていた
そこでなんらかのアクシデントがあり、6階と5階の中間地点辺りで倒れていた

一方の木村は、1階の踊場辺りから転落したと思われ、倒れていたのは地面の上だった
2階には、木村が所属する営業課のオフィスがある

非常階段を下りきって地上に降りると、すぐ右手にゴミ捨て場がある

木村が倒れていた周りには、古新聞が散乱していたらしい

同じ営業課の同僚が、木村がオフィスに溜まった古新聞をまとめて、出て行く姿を見ている

木村は、古新聞をゴミ捨て場に持って行くために非常階段を使い、足を滑らせ転倒した可能性が高い

「だから杉山が死んだのと木村さんは全然関係ないんだからね」

碧は念を押すように言った

そう言われても、瑠璃はどうも釈然としなかったが、とりあえず頷いた

「木村さんもね、頭を強く打って気を失って倒れてたの
こめかみを6針縫ったって言ってたかな」

碧は、自分の身体を抱くように腕を回し、肩をすくめ首を振った