いつもの如く登校をし、授業を受け、さて放課後になった。
帰り支度の最中、彼女は携帯電話のバイブレーターによる振動を感じ、ああ、ヒロキからかなと思いつつ携帯電話をみると、案の上ヒロキからのメールである。

――
 図書館で待ってる
         ――

この文句を受け、彼女は急いだ。
「ヒロキくんを待たせてはいけない!急がなきゃ」

下校すべく、あるいは部活動の為どたばたと行き交う生徒達。彼女はその雑踏の中をかき分けて図書館へ向かう。

彼女の居るのは二階である。図書館は三階の東にある。
校舎中央の階段を上ったその時!

ぼかんという音と共に体へ響く衝撃。
彼女のメガネが吹っ飛ぶ、肩にかけていたカバンは落ちる、スリッパは転がる。
はてなここに壁があったかしらんと思う間もなく、二、三段落ちた後、彼女はしりもちをついた。

「ああ、ごめんさい!」

の声と共にぼやけた視界に映るは男子生徒の姿。

彼女の目の前の男は手を差し伸べた。

「キミ、大丈夫?」

彼女は恐ろしくなった。男だ!男がいる!ヒロキではない別な男に話しかけられている!

体の芯から暑さと寒気が同時に襲われた彼女は困惑する。動揺する。

男もまた困惑した。ぶつかってしまった目の前の女子生徒は黙りこくったまま動かない。何処かいためたのかと思ったがどうも違うらしい。
差し伸べた手はいまだに空気を握っている。

「……」
「あ、あのキミ?」

暫くの後、男子生徒は手を引っ込め、彼女の落としたカバンやらスリッパやらを拾って黙って彼女に渡した。

彼女も黙ってそれを受け取り、小さくお辞儀した。

そうしてその場を立ち去ろうとしたとき、

「あ、待って!キミ」

と云う男の声に、振り向いた彼女に男がメガネをかけてあげた。

「えっ……」

突然に鮮明になった視界に、男の手が少し触れるこめかみ。彼女はびっくりして思わず小さな声を上げる。

男は茶髪の好青年であった。背丈はヒロキと同等かそれ以下であると見当をつけた。

「それじゃあ、ごめんな!」

もう一度「じゃあ」といって彼は去った。

彼女は朴念として、その場で立ちすくんだ。