彼女の恋人は大変な不人情者で、何時も女と見るや見境無しに食い物にし、彼女の恋人としての面目を潰す事を日課としている。
しかし彼女はとても健気で、二人でデートをしようとさて此れから何処へ遊びに行くかと云う段に成って、「悪りい、綾香に遊びに誘われたわ。デートは又今度な。お前へ、今日は一人で遊びに行け。」等と別な女の所へ行くと彼に言われても、黙って笑顔で頷いて笑顔で見送るのが常である。

 二人は高校二年生である。
何時から好き合って、付き合い始めたのかはクラスの者も知らぬ。
周りの者が気が付いた時には二人は恋人であったのだ。
二人は同じクラスであるが、まるで好き合っているとは見えない。
と云うのも彼が女と見れば手当たり次第に食うからである。

 彼は背も高く、運動や学問にも達者であり、見立ては良い。
昨今のハイカラな言葉で云うと「イケメン」の部類に入るのは間違いない。
然し性格、いや、性根が腐っていた。
 彼は持ち前の美男子ぶりを自覚しており一寸気に入った女生徒と付き合っては別れを繰り返すのだが、大抵肉体関係と遊び人振りに厭きれる事によって別かれるのである。
其の学校内での噂と云うより逸話によると、彼はある女生徒に思いの丈を告白され、付き合おうと恋人同士になった其の日に肉体関係を求めた。其の女生徒は好き合っているのだからと受け入れたが、一週間の後突然彼が「お前へには呆きた」と言って別れた。女生徒は捨てないで欲しいと懇願したが、彼は一言「今は別な女が居る」と言って拒絶したという話がある。