記憶の向こう側





「え…、もう…行くんですか?」




高橋勇樹は、心なしか急いでいるようにも見えた。




「ああ、仕事中だったし。…他になんかある?」



「いえ…。ありがとうございます、…高橋さん。」




とりあえず失礼のないように名字で呼んでみたけど、高橋勇樹は少し顔をしかめた。




「『高橋さん』って…気持ち悪いなぁ。誰もそんな風に呼ばないし。『勇樹』でいいよ、叶恵。」




か、叶恵って…



いきなり呼び捨て!?




調子が狂いそうになっていたら、勇樹……は、少し微笑んだ。




「じゃあよろしくな、叶恵。」





そう言って、勇樹は部屋から出て行った。




自分の部屋をあっさりと、ほぼ知り合ったばかりの私に任せて…。