記憶の向こう側





それから数日後の夕方。




大学から帰って家のドアが閉まっていることに気付いて鍵を取り出そうしたら、不意に夕暮れの空が目の端に見えた。




綺麗なオレンジの空…。




夕日のもっと上の、もう暗くなり始めた空に視線を移すと、輝く一つの小さな光が見えた。




「あ…、一番星。」




久しぶりに見た気がする。




私は星に向かって、小さく祈りを捧げた。






「杏子。今、帰り?」




優しい声がして振り返ると、敬太が白い犬を抱えて立っていた。




「敬太。…その犬、コロ?」