記憶の向こう側





「どうした、叶恵?」




勇樹は優しい顔になって私に尋ねた。




私は山下敬太さんが持ってきた、杏子さんのアルバムをぎゅっと抱き抱えた。




「うん、あの、このアルバム、借りていても大丈夫ですか…?」




山下敬太さんは驚いたようだったけど、すぐに笑顔になった。




「もちろん!田島さんの記憶が一日でも早く戻ることを願ってます。」



「ありがとう…ございます。」



「それでは、私はこれで。」




山下敬太さんは私達に軽く右手を挙げて挨拶をして帰っていった。




喫茶店に残った私と勇樹。



軽くコーヒーを飲んで、勇樹が口を開いた。




「俺達も帰ろうか?」



「うん。」




私は左手に借りたアルバムを持って、右手はしっかりと勇樹の手を掴んで、夜の人気のない道をゆっくり帰った。