記憶の向こう側





勇樹の声に、私は顔を上げて口を開いた。




「うん、そうかも…。でも、私がこの前見た犬は、子犬だった…。」




写真に写っている犬は、成犬。



だけど私が電車に乗ってたどり着いた街で見かけた犬は、子犬。



しかも飼い主がいた。




「そういえば、コロは妊娠してました。」




不意に山下敬太さんが、思い出したように言った。




すると素早く勇樹が突っ込んだ。




「コロってオスかと思ってたら、メスなのかよ?」




山下敬太さんはしどろもどろになりながらそれに答えた。




「はい、杏子が強引に付けた名前で…」




勇樹は腕を組んで、何やら考えた後、ポツリと言った。




「じゃあ叶恵が見た犬は、そのコロが産んだものだってことか…?」



「そう考えたら、話のつじつまが合う…。」




つじつまは合うかもしれないけど、私の記憶は戻らない。





だから私だけ、妙にその話に納得がいかなかった。