記憶の向こう側





夕方になって旅館の仕事が終わった。




山下敬太さんは本当に、旅館のフロントのソファーに座っていた。




「驚いた…。本当にいたんですね。」




かなり長い間待っていたとは思えないくらい、山下敬太さんはさっきと同じ笑顔を私に振りまいた。




「どうしても、田島さんと話したかったから…すみません。」



「いえ…。あの、もう一人交えて話しても大丈夫ですか?」




仕事している間、考えていた。



一人で話を聞くのは不安。



それに、勇樹は私にとってとても大切な人。



だから一緒に話を聞いてもらおうと思った。




私の様子を見て、山下敬太さんは全て察してくれたようだった。




「…例の彼氏さんですね?構わないですよ。」





私と山下敬太さんは、勇樹の働いている仕出し屋に向かった。




いつもは私より早く家に戻ってるけど、今日は少し遅くなると言っていたから…。