記憶の向こう側






「おかえり。」



「勇樹…?」




夕方、家に帰ると勇樹の姿があった。




…何だかまだ不思議な気分。




「そんなびっくりした顔するなよ。…何か、不自然か?」




少し首をかしげた勇樹に、私はやっとこれが現実だということを悟った。




「ううん。ただいま!」



「おう。遅かったんだな。」



「うん。病院行って、旅館にも顔出してたから…。」




旅館という言葉を聞いて、勇樹は少し嬉しそうな顔をした。




「お!復帰するんだ?あんまり無理するなよ。」



「うん…。すれ違いの生活になっちゃうけど…。」



「気にするなよ。休みがあるだろ?それに俺は叶恵と暮らしてるだけでも満足だしな。」



「うん…。」




勇樹は穏やかな笑顔で、私の頭をなでてくれた。




「疲れたろ?飯、作ってやるよ。」



「え…、私やるよ?」



「いいって!俺が作りたいんだ。叶恵は今度でいいからな。」




勇樹は立ち上がろうとした私を制止しながら言った。




「ありがとう…。」



「おう。空き時間使って、うどん打ったぞ。これ、茹でるから。」




勇樹はそう言いながら、キッチンから白いうどんの入ったポリ袋を取り出して、私に見せてくれた。




「本当に打ってきたんだ?すごい!」



「楽しみに待っててな。」




にっこり笑いながらそう言って、勇樹は台所に立った。