記憶の向こう側





お客様用の小さな部屋に通されて、女将さんが私に熱いお茶を差し出してくれた。




「もう一度、働けそう…?」



「はい、もう一度こちらでお世話になりたいと思い、参りました。」




私のその言葉を聞いて、女将さんは嬉しそうに笑った。




「嬉しいわ。叶恵ちゃん、あの時、本当に追い詰められた顔してたから。今は、余裕のある顔してるわね。大丈夫そうね。頑張れる…?」



「はい!よろしくお願いします。」



「こちらこそ。叶恵ちゃんには、表の接客に回ってもらうわ。いいかしら?」



「はい!」




やった…


やっと元の接客に戻れる…!




「じゃあ、明日からお願いするわ。」



「分かりました。それと、少しお願いが…。」




ちょっと言いにくかったけど、私は思い切って女将さんに切り出してみた。




「あら、何かしら?」



「アパートからこちらに通ってもよろしいでしょうか…?」



「アパート借りたのね?構わないけど…、生活に困らない?」



「大丈夫です。」



「そう。分かったわ。明日は夕方から大きな宴会があるから、それを頼むわ。昼過ぎに出て来て大丈夫だから。」



「はい。」



「じゃあ、頼んだわよ。」



「これから、よろしくお願いします。では失礼します。」




私は女将さんにしっかり礼をして、部屋を出て旅館を後にした。




これで…、何とか旅館の仕事にも復帰できそう。




よかった…。


全て順調に行ってる。