記憶の向こう側





病院からの帰り際、旅館に立ち寄った。




私が働いている旅館。




今は休暇をもらっているけれど…


そろそろ復帰したい。




そんな気持ちが芽生えてきた途端、女将さんと話がしたくなっていた。





「あら…、叶恵ちゃん?」




私の姿を見た女将さんは、少し驚いていた。




「ご無沙汰しています。」




私は女将さんに向かって、深々と頭を下げた。




「どう?調子は」



「はい。お陰様で…」



「まあ、立ち話もなんだから、上がって。お茶、用意するわね。」




休暇を取って、忘れられたか呆れられるかすると思ったけど、女将さんは意外にも優しい微笑みで迎えてくれた。




ぐるりと視界に映るものの全てを見回しながら旅館の建物の中を進んでいく。




そんなに長い間、休暇を取ってるつもりはなかったけど、いつもドタバタ走り回っていたこの旅館の全てが懐かしく感じる。