記憶の向こう側





「おい!叶恵!」




聞き覚えのある声に振り返ると、勇樹が割烹着姿で自転車に乗っていた。




「勇樹…。」



「どこ行ってたんだよ?電車に乗って。」



「え…。どこだっけ?」




本当に、降りた駅名を覚えていない。



…適当な所で降りたから。





「おい…。お前、大丈夫か…?」




勇樹は心配そうな顔で私に問い掛けてきた。




「え、うん…たぶん。」




私が曖昧な答え方をしてしまったからなのか…



勇樹はちょっと呆れた顔をした。




「いや…、やばいと思うけど…。とりあえず、家には帰れるよな?」



「大丈夫だよ。」




私はそこだけ自信を持って答えた。




知っている街だから、さすがにもう道は分かる。




「ホントかぁ?じゃあ気を付けてな。」



「うん。」