澤口先生が口にした疑問に、私も同じ疑問を抱えていた身として、はっと月瀬さんを見上げた。
そうだ。この人何しに来たんだ。
ポカンと口を間抜けに開けた私に一瞬目をやると、月瀬さんは口の端をクスッと引き上げる。
「ええ。授業料が遅れているのではと思いまして。」
「…、は?」
「僕は彼女の保護者ですから。
どうもご迷惑をお掛けしました。」
月瀬さんはもう一度頭を下げると、片手に持っていたネイビーのPコートから茶封筒を取り出し、澤口先生に手渡した。
澤口先生はそれを受け取りつつも、先程の私と同じようにポカンと口を丸く開けている。
今、澤口先生も私と同じことを考えているのではないだろうか。
だってこの件の当人である私だって、今日初めて聞かされたのだ。
それなのに、この人何で知ってるの…。
「先月の分も合わせて2万6千円。どうぞご確認ください。」
「はぁ、…………確かに。」
澤口先生は茶封筒の中身を数えると、今だ状況を飲み込めていないような顔をしてそう返事をした。
当然だ。私だって理解できていない。
以前からこの人は、私の趣味嗜好や行動を何故かよく知っていると思っていた。
でもこれは、理解の範疇を越えている。
たった今のことを、どうして彼が知っているのか。
それに私が通っている高校も。
私から彼に話したことは一度もないはずだ。

