「清岡。この方は…?」
私達のやり取りをずっと黙って見ていた澤口先生が、ついに痺れを切らしたのか、不信感たっぷりの声色でそう切り出した。
あぁ、そうだった。
まずは月瀬さんのことを説明することから始めなくてはいけない。
どうしよう。
まだ設定もあやふやなのに。
澤口先生の問いに思わず押し黙り思案していると、月瀬さんが余所行きの微笑みを浮かべて深々と頭を下げた。
「初めまして。清岡満の保護者として、現在同居しております。
月瀬類と申します。」
「月瀬さん…。
失礼ですが、清岡満さんとはどういった間柄で?」
「簡単に言えば親戚に中るのですが、
少々ややこしいというか。」
「と、言うと?」
「詳しく言えば、彼女の父親の弟の妻の末の弟です。」
「…………え?は?」
「因みに国籍は日本です。」
『生まれはフランスですが』と、月瀬さんは笑顔を崩さずに次々と設定を述べた。
澤口先生はというと、月瀬さんが説明したその謎の設定を理解しようと、難しそうな表情で首を傾げている。
そう言えば月瀬さんは、大家さんにもこう説明していた。
きっとこのまま、どこに行ってもこれで通すつもりだろう。
どうもこの追求するには少々面倒くさい設定が、調度都合よく生きているらしかった。
澤口先生は『はぁ、そうですか』と半ば諦め気味に頭をかくと、それ以上は聞いてこなかった。
「ところで、その、今日はどういったご用件で?」
澤口先生は姿勢を正すと、先程よりも僅かに解れた表情で続けた。

