カレの愛は増すばかり。


「月瀬さん。」


入り口からその人の名を呼ぶと、彼の深い青緑色の瞳が私を捉え、口角をうっすらと上げて笑った。


「あぁ、お嬢さん。やっと会えました。」


心底ホッとしたようなその表情は、少なからず先程まで彼に不安な気持ちがあったことを物語っている。


そうまでして、一体どうしたというんだ。


澤口先生と一緒に月瀬さんの側まで歩を進めると、彼の長身で隠れていたらしい英語教諭の長尾(ナガオ)先生(35歳 女性 独身)がうっとりと頬を桃色に染めている姿が確認できた。


どうやらわざわざ長尾先生が、今まで月瀬さんの相手をしていたらしい。


「いやぁ、貴女の学校まで辿り着けたのは良かったのですが、受付の事務の方に怪しまれてしまって。
説明をしようとしたのですが、何故かこの方の所まで案内されまして。」


『僕、日本語喋れるんですけどね』と、月瀬さんは困ったように笑った。

そして長尾先生に向き直りその手を取ると、月瀬さんよりも頭一つ半くらい背の低い彼女の瞳を覗き込んで、瞳をふっと細める。


「でも、この方のおかげで退屈せずにすみました。
長尾春子(ナガオ ハルコ)さん、でしたよね?ありがとうございました。」

「えっ!あ…、い、いえ。」


月瀬さんに笑いかけられた長尾先生は、頭の天辺から爪先までゆでダコのように赤く染め上げると、普段よりもずっと小さな声で返した。


この感じ、デジャビュだ。

以前にも月瀬さんが女性に対してこんな風に接するのを、見たことがある気がする。


半ば呆れたように月瀬さんを見つめると、月瀬さんはキョトンと瞳を丸くした。


というか、そんなことよりも、だ。

何故貴方がここに居るの。