「あぁ、なんて愛らしい…!!」



うっとりしたように瞳を細めると、月瀬さんは一言そう言って、黒いセーラー服に身を包んだ私を抱き締めた。


月瀬さんが家(うち)で暮らし始めてから、早数日。


彼の歯の浮くようなキザな台詞にも、もうかなり慣れた。

この過剰なスキンシップにも。


「そのセーラー服、本当によく似合っていますよ。まるで天使だ。」

「……それはどうも。」

「それなのに僕を置いていくなんて!それでは天使の姿をした悪魔じゃないか!!」


月瀬さんは涙声で叫んで、私の背中に回した腕により一層力を込めた。

頭を私の肩に押し付けると、じんわりとそこが濡れていく。


…まさか。大人が本気で泣いてる。


「月瀬さん。ちょっと離していただけますか。」

「イヤです!だって僕が離したら、貴女は学校へ行ってしまうんでしょう?! 」

「もう三日も休んでるんです。そりゃ行くでしょ。」

「イーヤーだー!僕を一人にしないでください!!」

「ちょ…っ!耳元で大きな声出さないでください!うるさいっ!!」


子供のように泣きわめく月瀬さんを、私は言いながら無理矢理引き剥がした。

月瀬さんの濡れた瞳が、責めるように私を見つめる。


う…。何でこんな瞳で見つめられなきゃならないんだ。


「い、今、僕のことうるさいって。」

「すみません。本当にうるさかったので。」

「辛辣すぎませんか?!」

「本当にうるさかったので。」

「二度も…!」