灰色の空にひらひらと舞う雪。

公園と呼ぶには寂しすぎるこの広場に、一面に広がるのは汚れない純白の絨毯。


この光景、ぼんやりとだけど覚えがある。


あぁ、そうか。

幼い頃に架純(カスミ)さんによく連れていってもらった公園だ。


『上手ね、満ちゃん。』

『…?』

『可愛い兎。良くできてるわ。』


背後から聞こえた優しい声に振り返ると、架純さんが膝を曲げて私を見下ろしていた。

その視線の先には、小さい頃に父に買ってもらった赤いミトンをはめた私の手と、不格好な雪兎。


耳は新緑の椿の葉。

瞳は、まだついていない。


あれ?私…、


『あら、まだ瞳がついていないのね。』





『可哀想に。…ね?』





架純さんの声が男の甘い低音に変わったかと思うと、もう一度振り返る前にパラパラと真っ赤な実が降ってきた。


新雪の上に、美しい赤が不気味な程よく映える。


これは、南天の実…。


『美しいでしょう?まるで鮮血のようだ。』


架純さんが、別人の声で私に問いかける。

私はまだ、振り返ることができない。