「僕のことを、お父さんと呼んではくれないのですか?」

「呼べません。私の父は一人だけですから。」

「では夫に…っ、」

「お、夫?!しません!必要ありません!!」


あまりに真剣な表情で突拍子もないことを言い出す月瀬さんに、私は激しく拒否をする。


父親がダメなら夫で、なんて、そんな無茶苦茶な話通用する訳がない。


「そんな…。」


月瀬さんは力無くそう呟くと、しゅんと眉を垂らして睫毛を伏せた。


納得してもらえたのだろうか。


そう思ったのも束の間、月瀬さんはすぐに何か決意したように顔を上げると、真っ直ぐ私を見た。


「分かりました。
では僕は貴女の“お父さん”も“夫”も諦めます、今は。その代わり、“保護者”はどうでしょう?」


“今は”って…。


「僕には、まだ16歳の少女にこの先たった一人で暮らしていけるような生活能力があるとはとても思えません。
そこで、僕が生活の面倒を一切引き受けます。」

「そんなこと、」

「『そんなこと、頼めません』なんて、言っている場合ではないのではないですか?」


少し厳しい口調で、月瀬さんは諭すようにそう言った。


確かに、実際、この先バイトだけで一人で暮らしていくのは厳しいと思う。

だからこそ、今よりももっとバイトを増やして、何れは学校を辞めて就職しようと思っていた。


勿論、それすら簡単なことではないことも重々承知だ。

それでも、私が生きていくにはそうするしかない。