「お久しぶりですね。野々宮先輩、守山先輩」

春疾と夏名は皆川とは親しくはなかった。

だけど、まったくの赤の他人と言う訳ではなかった。

よく言えば、知り合い。悪く言えばただの先輩後輩という関係にしかすぎなかった。


もっとも、皆川と千早の関係に関しては春疾たちにも分からなく、それは皆川だけが今となっては知っていることである。


そして、さらに付け加えるなら皆川の一方通行ではあるが、皆川は春疾をライバル視していた。恋敵とでも言おう。


「ああ…」

「ひ、久しぶりね…」

春疾の曖昧な答え、夏名の戸惑った応答。

二人とも皆川の目にあわせられなかった。


唐突に皆川は低く冷たい声ではっきりと言い放った。

「お二人には悪いんで、曖昧なのも嫌でしょう。すっきりとしたいでしょう。だからはっきりと言います。俺はあなたたちを恨んでます。憎いです」


何も答えず無言になる春疾たちは皆川にそう言われても不思議ではなかった。


そう。恨まれても仕方がないことをしてしまったからだ。


唇を噛み締める夏名。




「今でも野々宮先輩たちのことは大嫌いです。憎んでも恨んでも千早先輩はもうどこにもいないっ…。か…」

悲痛な声で続きの言葉を言おとした皆川だが言葉を喉の奥に押しとどめる。


きっと、こう言いたかったのだろう。

【返して下さい…千早先輩を】と


だけど、その言葉は春疾たちにはお門違いだったのが皆川にも分かっていることだったということが春疾たちに読みとれた。



藤本と皆川は千早の死について何かを知っている。


そう感じられた。



「だけど、あなたたちを恨むことを千早先輩は望んではいないから…。約束だから…」


また…【約束】か…。

一体、千早は藤本たちに何を約束させたんだ!?

悶々とする春疾。


「野々宮先輩たちと喧嘩しに来たわけじゃない、約束を果たしに来たんです」