「紗羽……大丈夫?」
トイレのドアが開くのと同時に、聞こえてきた声。
美香、来てくれたんだ。
「出ておいでよ。」
その声に、個室のドアを開ける。
ガチャッ……
真っ先にあたしの目に飛び込んできた、美香のやさしい笑顔。
「美香、ごめんね。」
「だから、いつも謝るなって言ってるでしょ。」
美香はいつも、『ごめん』より『ありがとう』と言うことを勧める。
実際、あたしもその方が気持ちは伝わると思ってる。
「うん、ありがと。」
「ふふ、ちょっとは素直になってきたね。でも“ありがとう”は蓮くんに言いなよ。」
蓮?
「え、何で?」
「紗羽がトイレに駆け込んだ時、真っ先に追い掛けたのは蓮くんなんだから。でも女子トイレだからさ、あたしを呼びに来たのよ。今も、そこで待ってるよ。」
と、美香はドアの外を指差した。
どうして蓮はそこまでしてくれるの?
「紗羽、もし戻るのが嫌なら、このまま蓮くんと帰ってもいいよ。あたしがなんとかするからさ。」
「うん、帰りたい。」
素直に今の思いを口にした。
「じゃあちょっと待ってて、バッグ持ってくるから。」
そう言って、美香はトイレから出ていった。


