「そんなことはせん」
「でもっ…」
「あの店舗の閉店はお前が雇われる前――つまり去年の時点で決まっていたんだ」
「え……」
そっか…。それで1月末までの短期のバイトってことで、あたしを雇ったんだ……。
「アノ店長、彼の父親のパティシエとしての遺伝子を受け継いでいるのか、若いが確かにパティシエとしての腕は超一流だった」
「超一流…」
「だかパティシエとしては超一流でも、経営者としてはズブのド素人。パリに行っている父親から、せっかく日本の店を任されたというのに……。まったく、どんでもない放蕩息子だよ」
「ひどい。人にはみんな向き、不向きがあるんだし、なにもそんな言い方しなくても、いーじゃん」
「確固たる事実を述べただけだ。それに私とて、王様のショコラグループの代表取締役だ。なにも好き好んでアノ店を閉店させるわけじゃない」
「………」
「彼がお菓子作りのことだけでなく、店長として経営のほうにも身を入れていれば、こんなことにはならなかった。いわば自業自得というやつだ」


