菓恋(かれん) ~be+ひと目惚れing~

草履の鼻緒が切れて、その場に座りこんでいるあたしの耳に、どこからか男たちの会話が聞こえてきた。

「こんなところにじっとしてる場合じゃない……はやく逃げなきゃ!」

あたしは鼻緒の切れてないほうの草履を脱ぐと、ニ足の草履を両手に持って、足袋のまま、再び逃走をはじめた。

だけど、冷え切った真夜中の地面は、足袋一枚の足の裏には、あまりにも冷たすぎたし、ツルツル滑って本当に走りづらい。



「ハァ、ハァ、ハァ…」



それからいくつの曲がり角を曲がり、いくつの路地裏に駆け込んだのか覚えていない。


けど……、


十何個目かの曲がり角を曲がったとき、ほるか彼方にぼんやりとともる灯かりが見えた。

「…!」

あそこに行けば、誰かがあたしを助けてくれるかもしれないっ!



「ハァ、ハァ、ハァ…」