翌日、出社した健一は部長に退職願いを出す。

驚愕する部長。


「何かの間違いだろ?あっ奥さんの病気が原因か?転勤の事か?」


「いぇ、一身上の都合です。では宜しく御願いします。」


引き止める部長の声を背中に受け、自分の課に帰る健一。


自分のデスクに帰った健一は、便箋を取り出し手紙を書き出す。宛先は営業所の村下所長宛てである。本心を打ち明けてくれた所長だけには本当の事を伝えておきたい。そんな思いで文章を綴る。


書き終えた健一は、デスクの整理に取りかかる。そんな健一を本社の皆は転勤の為の整理と考えている。


健一は、明日から有休を取ろうと思っている。もう仕事は何の意味もない。
今は、1日でも1時間でも1分1秒でも美沙子の側に居てやりたい。それだけである。


整理が終わると、パソコンを使い実家のある県の癌の専門医を検索する。一件の総合病院を見つけ、住所、電話番号をメモする。これで今日やるべき事は終わりである。


携帯を見つめる。
あれから理恵からのメールは来ない。


『当然だよな。あんな酷い事書いて送ったんだから…でも本当に好きだったよ。理恵ちゃん…』


理恵の番号とアドレスを消す健一。