「いや、嘘です」
気付けば、そんなことを口にしていた。
「は?」
きょとんと私を見る顔は、すごくまぬけで、思わず吹き出しそうになった。
「名前、高見……翔って言うんですね」
そう言うと、ふっと背中を向けて、
「……あぁ。いい名前だろ。高く見て翔ぶ、高見翔」
そう言ったんだ。
まるで、跳ぶためにつけられたような名前。
この名前のように、跳び続けているんだろうな、この人は。
まじまじと、彼の背中を見ながら、そんなことを考えていると、
「それが?」
「えっ?」
「俺が、高見翔だったら、なんなわけ?」
少し苛ついたような口調でそう言って、振り返った彼に、何を言ったらいいのか分からない。


