“ピッ!” 笛の音と同時に、彼が走る。 “タンッ” 跳んだと同時に、バーと一緒にマットに倒れた。 「あぁ……」 グラウンドの隅から落胆の声が漏れたのが分かった。 スタート地点に戻った彼が右足首の内くるぶし辺りを擦っているのに気付いた。 まだ、痛むのかもしれない。 「頑張れ」 小さな呟きは、きっと誰にも聞こえていないだろう。 祈るように手を胸の前で組んで彼を見ることしかできない。 彼は、踏み切り地点へ行き、歩幅を数えながらスタート地点へ戻り、何度も何度も、入念に助走を繰り返していた。